貧血と聞くと『血圧が低めの若い女性』というイメージを抱いている人は少なくないでしょう。ですが実は、男女差があまりなく《隠れた国民病》と言われるほど、日本という国は貧血を患っている人が多いのです。
とくに、60歳以上となると、5人に1人が貧血を患っています。
しかも貧血というのは、自覚症状なくひっそりと進行するので、気づかずに放置状態が続くことが多く、取り返しのつかない大きな病気へと繋がってしまう怖さがあるんです。
- なんとなく全身がダルい
- 日に何回か目まいがする
- 動悸や息切れ
このような症状がある方は、もしかすると貧血の可能性があります。ですが、たとえ自分自身が貧血だったとしても「たかが貧血、大したことないよ」と笑い飛ばしてしまう人がほとんどだと思います。
そこでこの記事では、貧血という病気の恐ろしさや貧血を引き起こす原因、そして、貧血を予防・改善するために『食べたほうが良いもの』『食べないほうが良いもの』について話していきたいと思います。
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貧血患者は思っている以上に多い
冒頭でも述べていますが《貧血=若い女性》という認識を持っている方は非常に多いようです。
しかし、日本国民の10人に1人は貧血を抱えてると言われています。いわゆる『隠れ国民病』とも言われてるのですが、貧血に危機感を持っている方というのは、非常に少ないのが現状のようです。
若い人の貧血というのは、月経による出血が原因であることが多く、女性が多いのは当然のことだと言えます。
しかし、30代・40代・50代と年齢を重ねるほど、男女間での差はなくなってきて、貧血を抱える人は年齢とともに男女差が縮まります。つまり、貧血の男性が増えてくることになるんです。
先進国の中でも日本は貧血対策の後進国
日本で一番多い貧血は『鉄欠乏症貧血』で、これは文字通り体内の鉄分が欠乏することが原因で起きる貧血です。
先進各国では、鉄分の欠乏は大病を引き起こす原因になるとして、鉄の欠乏を予防するように対策がとられています。たとえばアメリカでは、小麦粉に鉄分が添加されていたり、中国などでは、鉄分を添加した醤油を学校給食に積極的に使用するよう推奨されています。
一方の日本では、こういった対策はまったく取られておらず、国民1人1人の自主性に委ねられているのが現状です。
たしかに貧血というのは、死に繋がるものではないので、ガンや再生医療などと比べると専門医は圧倒的に不足しています。こういった状況からも、貧血を軽視してしまう傾向が強いのですが、たかが貧血と侮っていると、手痛いしっぺ返しを食らうことにもなりかねないんです。
身体から出る貧血のサインを見逃すな
冒頭でも述べていますが、全身のダルさ・めまい・動悸・息切れなど、いわゆる不定愁訴が貧血の症状です。しかし、たとえばたまたま眠れない夜があり、寝不足状態になっていても身体のダルさは残ります。息切れも、人によって起きるポイントが違ってきます。
なので、もう少し具体的な症状を以下に挙げてみるので、自分自身の状態と照らし合わせて頂きたいと思います。
◆ 貧血の可能性が高い症状
- 顔色が悪い
- 肩コリや首コリがよく起きる
- 氷を大量に食べたくなる
- 食べ物が飲み込みにくい
- 口の端が切れやすい
- 肌がカサカサになりやすい
- 髪の毛がよく抜ける
- 爪が薄くなり割れやすくなる
- 爪の真ん中がへこんでいる(スプーン状になる)
こういった症状が出ている場合、鉄分が不足していて酸素が全身に十分に行き渡らないために起きるので、貧血を疑うサインだと言えます。
貧血の特異な症状である《氷食症》とは
疲れやすい・眠っても疲れがとれない・少し動くだけで息切れする・めまい・ふらつきなどは、典型的な貧血の症状です。
しかし、前述している症状の中でも特異な症状として《氷食症》というものがあります。氷食症を起こすほとんどの人は、貧血を起こしているのですが、一体なぜこのような症状が起きるのかは、残念ながら現在の医学では解明されていません。
一説として、酸素不足になることで、自律神経が乱れてしまうのが原因だと言われているのですが、今のところ対応策としては、鉄分をしっかりと補給する以外にはないようです。
WHOが定める貧血の診断基準
氷食症のような特異例を除き、ダルさや息切れなどは年齢を重ねれば出てきやすい症状なので、貧血によるものなのか、加齢によるものなのかの判断が難しくなります。
なので、基本的に貧血を判断するためには、血液検査の数値を見て判断するしかありません。
◆ 血液検査で貧血かどうかを判断する数値
検査項目 | 基準値(1マイクロリットルあたり) | |
血色素濃度 Hb (ヘモグロビン) |
男性 | 13~18g/dL |
女性 | 12~16g/dL | |
高齢者 | 11g/dL以上 | |
赤血球の数 RBC | 男性 | 400~600万個 |
女性 | 400~500万個 | |
高齢者 | 350~400万個 | |
ヘマトクリット Ht (血液中に占める赤血球の容積の割合) |
男性 | 40~50% |
女性 | 37~46% | |
高齢者 | 34~43% | |
*基準値より低い場合には貧血の可能性が高くなります |
血液検査を受けたときの結果が出たとき、上記の項目を見ることで自分が貧血かどうかを判断できます。
医師から何も言われなかった場合は、とくに心配することはないのですが、医師から指摘を受けた場合には、指示に従って貧血の改善に務めることを心がけるようにしましょう。
医学的に低血圧と貧血は全くの別物
『血圧は正常だから自分は貧血とは無関係』といった感じで、低血圧と貧血を混同している方は少なくありません。
ですが、医学的には全く別の病気なんです。
花野井薬局『貧血のチョコット知識③ 貧血と低血圧』より画像を引用
貧血も低血圧も、めまいや立ちくらみを起こすので症状は似ています。ですが、この2つに関連性は全くありません。血圧が正常な人でも貧血を引き起こす可能性は十分にあるんです。
そこで貧血と低血圧の違いを、以下に挙げておくので、ぜひ参考にして頂きたいと思います。
低血圧の状態
低血圧は、血管の収縮反応が弱くなり、脳に十分な量の血液が供給されていない状態です。
血液の供給が十分でないということは、脳が働くために必要な酸素やブドウ糖が送れていないことになるので、めまいなどの症状を引き起こしてしまいます。
貧血の状態
貧血は、血液の量自体は十分に供給されているのですが、血液そのものが薄くなっている状態です。
もう少し正確に言うと、ヘモグロビンが減っているため血液が薄くなっているんです。ヘモグロビンの量が減ってしまうと、脳や臓器などに十分な酸素が行き渡らなくなってしまうので、いわゆる酸欠状態になってしまいます。
貧血の種類は鉄欠乏症貧血だけではない
大多数の貧血は、鉄分が不足することによって起きる鉄欠乏性貧血で、日本はではこれが原因となっている場合がほとんどです。
ですが鉄欠乏性貧血以外にも、貧血にはいくつかの種類があり、危険性を孕んでいる場合もあります。
ですが、貧血にはいくつかの種類があり、それが大病のサインの場合もあるので、身体のサインを見逃すことがないよう、ここでは貧血の種類について話していきたいと思います。
貧血の種類①:二次性貧血
二次性貧血というのは、血液疾患以外の病気が原因となって、二次的に引き起こされる貧血のことを言います。
体内に十分な鉄分があっても、その鉄分を上手く使えないことから貧血になります。
- 感染症
- 慢性炎症
- 慢性腎不全
- 肝疾患
主な原因としては、上記のような病気により二次性貧血が起きてしまいます。
貧血の種類②:薬の副作用
こちらの貧血は、近年、問題になっていることもあり、とくに気をつけなければならない貧血だと言えます。
腰痛や膝痛などで、痛み止めを飲んでいる人は多いかと思いますが、これが原因となって消化管出血を起こして貧血になるケースがあります。また、不整脈や冠動脈疾患でステントを入れている人は、抗凝固剤によって出血しやすい状態になります。
◆ 副作用による出血で貧血が起きやすい薬
薬剤名 | 効能 | 副作用 |
ロキソニン・アスピリンなど | 消炎鎮痛 | 消化管出血 |
ワーファリンなど | 抗凝固 | 出血が止まりにくくなる |
貧血の種類③:ビタミンB12欠乏性貧血・葉酸欠乏性貧血
ガンなどによって、胃や大腸を切除している人は栄養が十分に吸収できない状態にあります。
そのことが原因となって、ビタミンB12欠乏性貧血や葉酸欠乏性貧血になりやすくなっています。とくに高齢者の場合には、ビタミンB12欠乏性貧血を引き起こしてしまうと、認知症の症状が強く見られるケースがあります。
さらに、高齢者のヘモグロビン数値が11g/dLを切ってしまうと、1年後に1人で外出できなくなってしまうリスクが、2倍以上に跳ね上がると言われています。
貧血そのものは、老若男女関係なく危険な病気なのは確かなのですが、とりわけ高齢者となると、認知症にも繋がってしまう可能性もあるので、高齢者本人はもちろん、高齢者を抱えているご家族の方も気をつける必要があると言えるでしょう。
貧血の予防・改善に最も大切なことは食事
ここまで、貧血の原因や種類、貧血とて血圧の違い、そして貧血の恐ろしさについて話してきました。
では、その恐ろしい貧血を予防・改善するにはどうすればいいか――これはもう、バランスの取れた食事に尽きます。
とくに高齢者になるほど食が細くなっていくのですが、トータルで見ると、粗食の人ほど貧血になりやすいことが明らかになっています。なので、貧血を予防するためには『しっかりと食べる』ことが最も重要なことだと言えます。
貧血の予防・改善に最も良いのは肉
血液中のタンパク質の6割以上を占めているアルブミン。
実は、アルブミン値とヘモグロビン値は正比例の関係にあります。つまり、アルブミンが増えることで、ヘモグロビンも増加することになり、貧血の予防・改善に効果が期待できるんです。
さらに必要な成分として《鉄》は欠かすことができません。
鉄は1種類ではなく2種類存在する
貧血を予防・改善するためには、やはり鉄分が必要です。
身体に必要な成分である鉄ですが、実は鉄分にはヘム鉄と非ヘム鉄という2種類の栄養素があります。その違いを簡単に解説したいと思います。
鉄の種類 | 含まれている主な食材 |
ヘム鉄 | 動物性食品(肉・魚・牛乳など) |
非ヘム鉄 | 植物性食品(野菜・フルーツなど) |
ヘム鉄と非ヘム鉄の違いというのは、体内への吸収性になります。
ヘム鉄の方が体内に吸収されやすく、とくに牛肉やくじら肉などの赤身肉はヘム鉄を含んでいる量が多いので、タンパク質を摂るならば魚よりも肉のほうが効率的だと言えます。
その他に、鉄を含有量が多い食品は、以下の表にまとめておくので、ぜひ参考にして頂きたいと思います。
◆ 鉄の含有量が多い食品(多い順)
鉄分を多く含んでいる食品(100g) | 含有量 |
あおのり(素干し) | 77.0mg |
いわのり(素干し) | 48.3mg |
ひじき 鉄釜(乾) | 58.2mg |
赤こんにゃく | 78.5mg |
きくらげ(乾) | 35.2mg |
豚レバー | 13.0mg |
鶏レバー | 9.0mg |
小松菜 | 2.8mg |
ほうれん草 | 2.0mg |
*ひじきステンレス釜では6.2mgに減少 |
ほうれん草ではあまり鉄分は摂れない
ほうれん草は鉄分が豊富なイメージがありますが、実は、ほうれん草ではあまり鉄分が吸収されないんです。
その理由は、ほうれん草独特の『えぐみ』にあります。
ほうれん草のえぐみの正体はシュウ酸で、これが腸の中で鉄分とくっつくことで、体内へ吸収されることなく排出されてしまうんです。せっかく頑張ってほうれん草を食べても、鉄分が体外に排出されてしまうのでは意味がありません。
なので、鉄分の摂取としては、あまり鉄を含んでいるイメージのない小松菜のほうが鉄分をしっかりと摂れます。
レバーの食べ過ぎには注意が必要
鉄分を多く含んでいる食材として、まず頭に浮かぶのはレバーだと思います。
しかし、若いうちは問題ないのですが、高齢者の場合には肝機能が低下している人が多くなるので、あまりレバーを食べることはお勧めできません。
元々、肝臓には鉄分が多く貯蔵されているのですが、そこへ鉄分を大量摂取することで、肝臓が鉄分を分解できずに貧血を悪化させてしまうこともあります。60歳を超えたらレバーの摂取は控え目にしましょう。
また、レバーにはビタミンAが多く含まれているのですが、これも過剰摂取になると、皮膚や眼球の乾燥・倦怠感などが増してしまう原因になります。
とくに妊娠中の女性は、胎児に悪影響を与える恐れもあるので、こちらもレバーの摂取を控え目にして頂きたいと思います。
ひじきは調理方法で含有量が大きく変わる
前述の『鉄の含有量が多い食品』の表を見ても分かるように、ひじきは使う釜で大きく鉄の含有量が違ってきます。
昔ながらの、鉄釜を使って煮たあとに乾燥させる調理方法では、鉄の含有量は100g中58.2mgとなっています。しかし、ステンレス釜で調理したひじきには6.2mgと、50mg以上も減少していることが分かるかと思います。
スーパーなどでひじきを買う場合、鉄釜かステンレス釜かの見分けが重要だと言えるでしょう。
玄米や麦芽は貧血の予防・改善には向いていない
玄米や麦芽に含まれているフィチン酸にはキレート作用というものがあります。
これは、一言で言ってしまえば、フィチン酸と鉄分が結びつくと体外へ排出されてしまう作用のことをいいます。
健康のために玄米を食べることは良いことなのですが、こと鉄欠乏性貧血の予防や改善となると、全くの逆効果となってしまうので、覚えておいて損はないと言えるでしょう。
菜食主義は葉酸欠乏性貧血を招く
葉酸欠乏性貧血を防ぐには、カボチャやニンジン、ピーマンなどの緑黄色野菜の摂取が効果的です。
ですが、野菜を積極的に摂取することを過剰に意識するあまり、菜食主義(ベジタリアン)になってしまうのはやりすぎです。
とにかく食生活というのはバランスが大切です。
肉・魚介類・乳製品なども食べないと、貧血予防として効果的な栄養素であるビタミンB12が不足してしまいます。
こういった知識があって、サプリメントなどで不足分の栄養素を補充している方であれば問題ありません。しかし、流行りや時流で野菜に偏った食生活を送っていると、貧血だけでは済まなくなるので注意しましょう。
中高年のダイエットも貧血を招きやすい
最近は多くの中高年の方が、健康維持やスタイル改善などのためにダイエットに励んでいます。
無理のないダイエットならば問題はないのですが、張り切るあまり、必要以上に食事制限を行ったりするのは大間違いです。
ダイエットでは、大切なタンパク質がエネルギー源として使われてしまうため、無理な食事制限をしてしまうと、造血のほうへエネルギーが回らなくなってしまい、貧血を引き起こす原因にもなります。
ダイエットの基本は、バランスの取れた食事と適度な運動です。
くれぐれも、過剰なダイエットを行うようなことはやめて頂きたいと思います。
まとめ(隠れ国民病《貧血》の怖さと予防改善法)
貧血は、バランスの取れた食生活を送ることによって、予防することも改善することも可能です。
しかし、食事だけでは改善が難しい場合には、医師が処方する鉄剤を飲んで改善させていくことになります。ただ、鉄剤というのは、吐き気を催し飲みづらい薬でもあり、さらに完治するまで数ヶ月という長い期間を要します。
そのため途中で治療を断念してしまう方が多いのも事実です。
なので、飲みづらい薬を飲み続けるようなことになる前に、普段からきちんとした食生活を送ることが重要となります。
バランスの取れた食事と適度な運動――。
貧血にならないために、日頃の生活リズムをきちんと管理して、薬に頼らない身体を作るように心がけましょう。
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